9784904862384
腰痛の原因と治療
4,800円(税込5,280円)
528
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共著した園部俊晴からの書籍の紹介です。
高橋弦先生
(山王整形外科クリニック院長、日本運動器疼痛学会理事、整形外科医)
園部俊晴
(コンディション・ラボ所長、理学療法士)
整形外科とリハビリの巨匠が共著!
・脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアと診断され、腰が痛い患者が来たら腰を温めたり、もんだりなんて、していませんか?
・腰部疾患の患者には、とりあえず体幹のトレーニングをしていませんか?
・骨盤の前傾、後傾を見て反対方向の運動だけをしていませんか?
これは腰痛の患者が来た時に、評価をせずに治療をしている療法士によくある間違いです。
そして、しっかり評価をせずに治療するために、次のような状況に陥ります。
・腰部疾患の患者は臨床で最も多い。だからこそ、自信を持って見れるようになりたい。
・腰痛は、理学療法などの運動療法をしても、しなくても、変わらないし、時間がたてば痛みが軽減する。
・腰痛は自分では変えられない。腰が曲がっている患者には伸展、反っている患者には屈曲の運動など、姿勢と反対のストレッチをしているのに変わらない。どうやったら良くすることができるのか?
・ なぜ腰が痛いのか?それぞれの患者は姿勢が違っていても痛みは同じ部位にあるので、痛みの原因となる組織がわからない。
・ 治療を始めて割とすぐに痛みが軽減する患者もいれば、いくら治療してもなかなか痛みが取れない患者がいる。その違いはなにか?
この様な悩みは、あなただけではなく、多くの療法士が抱えている悩みでもあります。
では、どうしてこの様に悩んでしまうのでしょうか?
はっきりと言います。
それは、評価ができていないからです。
腰痛を良くするためには、局所診断(評価)をきちんとして痛みを拾っている組織を見つけて、それを改善していかなければいけません。
評価をしっかりとして組織を見つけて行かなければ、いくら体幹のトレーニングをしても痛みは軽減しません。
しかし、評価をしていないと言うと、よく言われることがあります。
「評価ぐらいしていますよ。毎回、痛みを確認して、動く範囲を確認しています。」と・・・
確かに、評価はしているかもしれません。
しかし、その評価は関節可動域を測ったり、筋力を確認したり、痛みの出る動きを確認する程度にとどまっています。
それも確かに大切です。
しかし、医療機関に来る腰部患者は主に腰痛があるために来院します。
そのため、痛みの原因となっている組織を特定(局所診断)して、なぜその組織が痛みを出してしまっているのかを評価しないといけないのです。
動きにくい方向に関節可動域練習やストレッチを、筋力が低下している筋のトレーニングを行っていればいいというわけではないのです。
まずは原因となっている組織を特定しなければいけません。
その痛みはいつからなのか、痛みの原因となっている組織はどのような状態なのかも考えなければいけません。
そして、その組織がが痛みを出す原因となる動作を解明していかなければ患者はよくならないのです。
腰痛はその状態と病期によって、私たちがやるべきことが異なります。だからそれをしっかり学ぶ必要があります。
ぜひ読んで頂きたい書籍が出版されました!!
だから、腰痛に対する考え方、治療をしっかり網羅すれば、他の疾患にもおのずと応用できるようになるでしょう。
この書籍には、日本で初めて、運動器疼痛症候論という新しい考え方が解説されています。
“運動器疼痛症候論”とは、「整形外科的診断」および「疼痛症候学的診断」に基づき、臨床徴候から痛みの原因となる病態を診断し治療する体系として、高橋先生が提唱している概念です。
我々医療人は、患者の症状とその原因を多角的に突き詰めていく必要があります。高橋先生は当たり前になっていることを当たり前とは思わずに、いつも多角的な視点で真実を追求しようとしています。そしてその真実を追求しようとするお考えによって行き着いた概念が「運動器疼痛症候論」だと思います。
“私はコンディション・ラボを開院する前は、腰痛にはあまり自信がありませんでした。関東労災病院にいた時は、インソールを主にしていたため足部や膝関節疾患を診る機会が多く、腰痛患者を見る機会はあまりありませんでした。そのため開院して腰痛の患者が来たとき、痛みを改善することができるのかと、初めは身構えていました。”(動きと痛みlab主催セミナー「腰痛改善のための私の工夫と概念」より)
園部ですら悩んだことのある腰痛。 しかし、運動器疼痛症候論を知り、多角的に腰痛をとらえ、機能解剖学的に論理的に説明できるようになったことで、自信を持って腰痛に対峙することができるようになり、今では“最も得意とする疾患の一つ”になったのです。
腰痛に限らず、疾患に対する魔法の治療法はないのです。この疾患にはこうやって治療するといった決まった治療法も存在しません。
目の前にいる患者の病期はどこなのか・・・
痛みの原因部位の判断と説明・・・
それに見合った対応はできるのか・・・
姿勢のアドバイスはできるのか・・・
治療過程を患者に説明できるのか・・・
これらの事を患者に伝えることができますか?
これらは“腰痛にはこの治療”といったような画一的な治療法ではできません。
運動器疼痛症候論に基づく多角的な概念を身に着け、機能解剖学の知識を身に着けることにより説明、治療ができるようになります。
本書には、これまでの腰痛医療にはない考え方がたくさん含まれています。
そのため、この書籍を読むと腰痛の治療をする際、これまでとは見方が変わってくるはずです。画像に囚われていた考えが変わり、痛みを出している正体を本当の意味で探ろうとする思いが、これまでと変わってくるはずです。そしてこの思いこそ、医療を真に追求する思いであり、腰痛に限らずすべての医療の分野で役立つ概念になっていくと信じています。
本書の構成はこのようになっています。
この本は、すべて読み終えると、これまでとは腰痛の見え方が変わります。そして、そのことが意味するものは、整形外科疾患で一番多い疾患の一つである腰痛を多角的にとらえ理解することができるのだから、これまでより腰痛患者に対する結果が変わります。また他の疾患についても多角的にとらえることができるようになるという事です。
なぜそう言えるのか、各章の内容を少し見てみましょう。
この章は、
1. よくある光景
2. 現状
3. 腰痛を総合的に診断する
という構成になっています。
ある日、腰痛のAさんが来院しました。そしてレントゲンとMRIをとった結果、B医師に「レントゲンでL5/S1間の狭小化が認められ、MRIでL5/S1椎間板にヘルニアがあり、これが痛みの原因です。ヘルニアはかなり前からあったものです。」と告げられました。そして、「鎮痛薬と湿布で様子を見て下さい」と言われ様子を見ることにしました。1週間後、腰痛は和らぎましたが、日常生活に支障があるため再度来院。そこで、リハビリをしましょうと言われ、物理療法と運動療法が処方されました。リハビリ室に行くとC療法士に体幹や腰部のチェックが行われ、筋力トレーニングを主体としたリハビリが行われました。何度か通院しているうちに痛みは軽快していきました。C療法士に「腰痛が再発したら今回の運動を実践してください。予防のためにダイエットと日ごろから運動をしてください。」と言われました。Aさんは満足して「腰痛になったらまた来よう」と思いつつ帰宅しました。
どこにでもありそうな光景ですよね。
しかし、この中になにも問題はなかったのでしょうか?
本当に「正しい診断」と「診断に基づく適切な治療」がなされた結果、Aさんの腰痛は“治った”のでしょうか?
本当に「腰」が痛かったのでしょうか?
画像所見と症状は本当に一致していたのでしょうか?
以前からあったヘルニアがどうして痛み出したのでしょうか?
また椎間板ヘルニアがあるのにどうして痛みが消えたのでしょうか?
医師の診断と理学療法士の見立てが一致していたのでしょうか?
これらの疑問を感じませんでしたか?
現状として、整形外科医、ペインクリニック医、慢性痛の専門医、心療内科と精神科医、コメディカルでは、その立場によって、同じ患者を見ても見方がかなり異なります。整形外科医とそのオーダーにより治療を行っているはずのコメディカルの間で考え方が一致しない場合もまれではありません。
「無症候の中高年者に、X線やMRIを実施したらどうなるか。恐らくほぼ全員に加齢的変化が見つかるはずである。これらの加齢的変化をもともと持つ人が、腰痛になり画像検査を受けたならば、「変形性脊椎症」や「椎間板症」などと診断が示されるだろう。これが腰痛で来院する人が診断名を付けられる通常の過程である。
しかしこれらの過程を考えると、これらの所見が痛みを起こしているのかどうかが不確かなことは、医学の素人でもわかる。
整形外科的診断名は画像所見を示しているに過ぎず、必ずしも腰痛の真の原因を示しているとは限らない。腰痛の診療はもっと大きな体系で、多角的かつ、総合的な解釈が必要である。」(本文より引用)
この文面はとても重要だと思いませんか?
このことを踏まえて、本書では医療の現状や基礎医学、腰痛治療、理学療法について詳しく解説していきます。
この章は、
1. 腰痛の病因論
2. 腰痛治療体系
3. EBMとガイドライン
4. 医療者
という構成になっています。
この章では、病因論からはじまり、治療体系、EBMとガイドラインについて、そして医療者について現状が書かれています。
病因論は「局在論」「運動器機能不全論」「神経機能不全論」「心因論」が述べられています。これを見ているのは多くはコメディカル、療法士だと思いますので、恐らくは局在論を踏まえて運動器機能不全論を主体に考えていることが多いと考えられます。
痛みのとらえ方一つとってもこの様に違いがあります。
そして、医療を提供する立場の違いによって、腰痛患者の病因がどこにあるかの考え方が異なります。
整形外科医における病因論の中核は局在論。脊椎外科医の病因論は局在論と運動器機能不全論。麻酔科医、ペインクリニック医は局在論、神経機能不全論、心因論。リハビリテーション医は運動器機能不全論。とそれぞれの立場や専門領域によって腰痛のとらえ方が異なります。
高橋先生の考える腰痛専門医とは「1.患者さんの病態を身体、神経、心の面から総合的に診断し、2.自らが得意としない領域の評価は専門家に任せ、3.自分自身及び専門家からの情報を総合して診断を行い、4.その診療に基づいて治療計画を立ち上げ、5.それぞれの治療を最適な専門家に支持できる人の事である。つまり診断と治療計画のプロのことに他ならない。」(本文より引用)
この様に、それぞれの専門家が、それぞれの視点で病態をとらえ、総合的に診断されて治療することが必要とされます。
しかし多くの診療所は医師と理学療法士だけの場合が多く、医師と理学療法士がそれぞれ身体、神経、心の診断に通暁し適切な診断を行い、しかる後に「化学」の治療と、「物理」の治療の専門家として治療に当たらなければなりません。
この章は、
1. 神経肉眼解剖学
2. 神経支配
3. 運動器疼痛の疼痛学
という構成になっています。
神経肉眼解剖学では、脊髄と脳、神経根・後根神経節、脊髄神経・神経叢・末梢神経、交感神経という構成になっています。腰痛を理解するために必要な肉眼解剖学です。構造を理解することは治療するうえで絶対に必要になります。しかし、知っているけど、理解できていないことが多いと思います。とても詳しくわかりやすく、医師の視点で書かれているためコメディカルは知っておく必要があります。
また、支配神経の節では、椎間板や椎間関節、仙腸関節、皮膚などの組織ごとに、「受容器」「求心路」「支配分節」が詳しく書かれており、ここまでわかりやすく、かつ詳しく書かれた本は多くはありません。
運動器疼痛の疼痛学の節では、「病変部位」、「受容器」、「一次求心性線維」、「二次求心路」、「疼痛感覚と痛み」、「感覚と情動」、「痛みと痛覚」、「生理的と病的」、「正常と病的」、「運動器疼痛と運動痛」について書かれています。さらに「正常と病的」では「体組織の組織修復機能低下による痛み」、「神経系それ自体を病変部位とする痛み」、「神経系の機能異常による痛み」、「心因性の痛み」について書かれています。
いかがでしょうか。
これを見ただけでも気になる事がたくさんあるのではないでしょうか?
この章は
1. 序論
2. 体性感覚構造
3. 運動器疼痛の空間的構造
という構成になっています。
ここでは「運動器疼痛の空間的構造」から一部抜粋して紹介します。
運動器疼痛症候論においては、痛みを空間的に捉えることを重要視している。そのためこの項目では痛みを空間的な構造として捉えるために、「病変部位」、「疼痛感覚部位」、「疼痛知覚部位」の概念について説明する。
「病変部位」とは、病理学的変化を呈する体組織(運動器あるいは神経組織)の事である。(中略)腰痛の場合の病変の大きさと推定される診断名について表3-1にまとめる。
「疼痛感覚部位」とは、病変部位と感覚求心路において感覚を共有し、病変部位と同時に痛みが感覚される体組織(3次元空間)の事である。つまり、病変部位が刺激されると痛みが生じるが、同時に病変部位周辺の体組織にも痛みが感覚される。この様な現象が生じる病変部位周辺の体組織を筆者は「疼痛感覚部位」と呼んでいる。
「病変知覚部位」とは“痛みが知覚された体表面の領域”の事であり、臨床的に使われている“痛みの部位”や“疼痛部位”と同じ概念である。(中略)疼痛知覚部位とは、病変部位を含む疼痛感覚部位が体表に投射された部位の事である。そのため、四肢より疼痛感覚部位が広い領域を占めている脊柱周辺では体表に投射される疼痛知覚部位も広範囲を占めることになる。さらに脊椎疾患では、痛みは病変部周辺だけではなく神経機能的に関連する広い領域に知覚される。
筆者は疼痛知覚部位をわかりやすく図示するために、侵害受容性疼痛を示す図と神経障害性疼痛を示す図とに分けてまとめている。この図は筆者が「ペインマップ(pain map)」と呼んでいるものであり、臨床において常に念頭に置き、腰痛の診断には欠かせないものである。(中略)神経根障害のペインマップは皮膚節と似ているが、両者は一致しないことに注意してほしい。(本文より改変、引用)
疼痛を空間的とらえることや、疼痛知覚部位、ペインマップなど、これらの概念は臨床を考える上で、とても参考になるのではないのでしょうか。詳細は本書をご参考下さい。
この章は、
1. 診断
2. 検査
3. 評価
という構成になっています。
ここでは「1.診断」の節の「問診と病歴」から一部抜粋して紹介します。
いかなる慢性腰痛患者においても、初発から発症までの経過について、初発時、過去腰痛歴、発症時、現病歴を確認する必要がある。
発症原因、既往歴、発症パターン、発症から初診までの経過などを確認する。
発症原因では、原因となった姿勢、動作、作業などを記録する。「高エネルギー外傷」は患者さん本人が覚えているため、問診は容易だが、「低エネルギー外傷」は本人が原因と認識していないことがあるため、注意深い聞き取りが必要である。
既往歴は、腰痛では他疾患との合併が診断上の参考になる場合がある。ステロイドの長期使用や血液透析は骨粗鬆症性椎体骨折を高血圧は腹部大動脈解離を疑わせる。
発症パターンは、急性発症、慢性腰痛急性増悪および不詳にわけられる。
また、発症から初診までの経過を確認することにより、腰痛を急性腰痛、亜急性腰痛、慢性腰痛、また急性腰痛は本急性と回帰性に分けられる。
さらに急性腰痛においては、急性期、寛解期、亜急性期、慢性期に、亜急性腰痛と慢性腰痛は、安定期、増悪期、寛解期とそれぞれの腰痛の病期を分ける。
また、患者さんは、腰痛を「重い、だるい、凝る、うずく、ずきずきする、しびれる、刺すような」など様々に表現する。これら言葉により示される痛みの性質はは、病変部位の病態を示唆していると思われる。
(本文より改変、引用)
いかがでしょうか。
目の前にいる患者さんの状態をどこまで把握できていますか?
急性期に運動をしてはいけませんよね。慢性期に安静もよくありませんよね。問診から患者さんがどの状態なのかを把握することは非常に重要になります。
問診に重きを置いていない人も少なくないと思います。
しかし、患者さんの訴える表現にも注意して聞くと見えてくるものが必ずあるため、トップランナーの多くは問診を丁寧に行います。
この章は、
1. 序論
2. 急性腰痛の治療
3. 亜急性腰痛の治療
4. 慢性腰痛の治療
という構成になっています。
この章は急性腰痛、亜急性腰痛、慢性腰痛の治療を、病態ごとに紹介してあります。例えば、急性腰痛では、red flags腰痛、green light腰痛(急性期)、green light腰痛(寛解期)に、亜急性腰痛は炎症遷延、神経機能不全、神経障害、心因性に、慢性腰痛では、器質的病因による慢性腰痛、心因性慢性腰痛、サルコペニアに分けられています。
ここではgreen light腰痛(急性期)から紹介します。
【病態】
病変部位の体組織には、侵害受容性疼痛・炎症性疼痛が感覚されている。侵害受容性疼痛・炎症性疼痛を反映して痛みは中等度以上(VAS>30?)となる。病変部位に機械的刺激が加わるような姿勢や動作は、いずれも強い痛みを惹起する。侵害刺激が強い場合には疼痛感覚部位にも感作が生じる。
【薬物療法】
病変部位の侵害受容性疼痛・炎症性疼痛には原則として非抗炎症性鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)を処方する。(中略)筆者が非抗炎症性鎮痛薬を第一選択と考えるのは、急性期のgreen light腰痛における炎症は創傷治癒の第一段階であり、本来抑制しない方が良いと考えるからである。
【理学療法】
痛みが中等度以上(VAS>30?)の急性期における運動療法や徒手療法は、疼痛悪化や病変部位の創傷治癒の遷延化といったリスクがある。green light腰痛症例への理学療法は、整体術でいう関節のサブラクセーションも含まれるかもしれない。しかし徒手療法には痛みの悪化の危険性があり、診断と施術結果に確信がある場合を以外は施行すべきではない。
【安静】
腰痛診療ガイドラインは、急性腰痛に安静臥床は不要としている。しかし、痛みが強い場合には、安静は何よりも確実な鎮痛手段であり、安静は創傷治癒を促進するという意味もあるため、装具療法などの外固定も積極的に使用すべきである。
この様に、それぞれの「病態」、「薬物療法」、「理学療法」、「手術」、「精神療法」などが示されているため、各病期にどの様な治療方針で何が行われるかを、詳細に知ることができます。
この章は、
1. green light急性腰痛の理学療法
2. yellow flags急性腰痛の理学療法
3. 神経機能不全(中枢性感作)
4. 神経障害
5. 慢性腰痛の理学療法
という構成になっています。
ここでは、慢性腰痛の理学療法の中の、「心因性以外の慢性腰痛」から抜粋して紹介します。
慢性腰痛においても運動器疼痛諸侯論に基づき、まずは局在論、運動器機能不全論、神経機能不全論の視点から患者を診て、その原因を器質的・機能的な病態から考えるようにする。慢性痛に至った腰痛患者には、病変部位の影響以外にも、中枢性感作、筋緊張、精神的に不安感など多角的は要因が影響している。こうしたことを念頭におき、その患者に関わる医師・療法士・看護師・薬剤師などがチームとしてかかわって行く事を重要視している。
【チームとしての関わり方】
慢性腰痛患者は、心因性ではない場合でも精神的な不安を有し、また医療側に不信感を覚えることもあり、心理面での影響も無視できない。このため「患者と医療側は同じ目的に向かいうために協力しあう関係」であることを理解してもらいながら治療することが大切である。
【筋緊張の緩和】
慢性腰痛では病態が明確であるか否かに関わらず、中枢性感作や筋緊張が痛みに影響している可能性が高い。このため理学療法を施行する際は、上述した心理的側面の配慮に加え、筋緊張を緩和させることを先行する。「筋緊張を緩和させるためのアプローチ」で紹介しているので参照されたい。
【仮説検証の繰り返し】
慢性腰痛においても、局在論、運動器機能不全論、神経機能不全論の視点から患者を診て、その原因を器質的・機能的な病態から考え仮説検証を繰り返し行う。病態が明確になればチームとして行うことも当然決まってくるはずである。特に慢性痛では画像所見や検査所見にはその病態が現れないことも多く、診断が容易ではない場合がある。そのため病態把握においても療法士の役割は大きいと考える。例えば療法士が仮説検証の繰り返しの中で
「この筋を緩めると痛みが緩和するので、病態として○○が関与していると仮説を立てることができる」
「この部位の可動域を拡げると痛みが緩和するので、病態として○○が関与していると仮説を立てることができる」
「この肢位をとらなければ痛みが出ないので、病態として○○が関与していると仮説を立てることができる」
などの情報を医師と話し合うことで患者の病態把握に一役を担うことができる。
などなど、これだけではこの本の魅力を紹介しきれませんが、これまでとは腰痛の見え方が変わると言っても過言ではありません。なぜなら、これまでは腰痛の症候学的診断という視点が十分ではなかったと思われ、多角的視点で総合的に診断する視点の一つである、「運動器疼痛症候論」の概念と知識を得ることができるからです。この概念と知識は、腰痛診療に関わる全ての医療者にとって基本となる知識なのです。
それでもあなたはこう思ったかもしれません。
そんなこと言っても、他の腰痛の本と大して変わらないんじゃないの?と。
それはあなた次第です。
もしあなたが、やはり腰痛はあまりよくならないと思って治療すれば、結果は伴わないでしょう。
しかし、あなたが本気で腰痛患者を良くしたいとと思えば、この本に書かれていることは宝の山となる事でしょう。この本を読むことは、あなたの療法士としての今後の人生にとって、最高に価値のある時間になるはずです。
高橋 弦先生(山王整形クリニック 院長)
昭和59年千葉大学医学部卒業
同年千葉大学整形外科入局
松戸市立病院、君津中央病院、川崎製鉄千葉病院、
千葉大学付属病院、国立精神神経センター国府台病院、
千葉市医療センター(センター長)に勤務
平成21年より山王病院整形外科に勤務
【資格】 医学博士、日本整形外科学会整形外科専門医
【専門】
腰痛、背部痛、神経痛、慢性痛、肢体不自由児者医療
【専門的活動】
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会、日本腰痛学会、日本疼痛学会、
日本運動器疼痛学会、日本解剖学会
園部 俊晴(コンディション・ラボ所長)
足・膝・股関節など、整形外科領域の下肢障害の治療を専門としている。
故、入谷誠の一番弟子。一般からスポーツ選手まで幅広く支持され、多くの一流アスリートや著名人などの治療も多く手掛ける。身体の運動連鎖や歩行に関する研究および文献多数。
「リハビリの先生が教える 健康寿命を10年延ばすからだのつくり方」「スポーツ外傷・障害の術後のリハビリテーション」「医療従事者のための効果的な文章の書き方」など著書多数。
新聞、雑誌、テレビなどのメディアにも多く取り上げられる。
運動連鎖を応用した治療概念は、専門家からの評価も高く全国各地で講演活動を行う。また、医療の現場に役立つ書籍を数多く残していきたいという思いから、臨床を主軸にしながら運動と医学の出版社の代表取締役も勤める。
【肩書き】
理学療法士 コンディション・ラボ(インソールとからだコンディショニング専門院) 所長
運動と医学の出版社 代表取締役社長
臨床家のための運動器研究会 代表理事
身体運動学的アプローチ研究会 代表理事
入谷式足底板インストラクター
実践リハビリ研究会 学術顧問
文京学院大学保険医療科学研究科(大学院)・特別講師
昭和大学保健医療学部理学療法科(理学療法科4年)・講師
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高橋弦先生
(山王整形外科クリニック院長、日本運動器疼痛学会理事、整形外科医)
園部俊晴
(コンディション・ラボ所長、理学療法士)
整形外科とリハビリの巨匠が共著!
運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療
腰痛の原因と治療
この書籍をすべて読めば・・・
これまでと腰痛の見え方が変わります!!
腰痛の原因と治療
この書籍をすべて読めば・・・
これまでと腰痛の見え方が変わります!!
あなたは、こんな間違いしていませんか?
・脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアと診断され、腰が痛い患者が来たら腰を温めたり、もんだりなんて、していませんか?
・腰部疾患の患者には、とりあえず体幹のトレーニングをしていませんか?
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これは腰痛の患者が来た時に、評価をせずに治療をしている療法士によくある間違いです。
そして、しっかり評価をせずに治療するために、次のような状況に陥ります。
こんなことで悩んでいませんか?
・腰部疾患の患者は臨床で最も多い。だからこそ、自信を持って見れるようになりたい。
・腰痛は、理学療法などの運動療法をしても、しなくても、変わらないし、時間がたてば痛みが軽減する。
・腰痛は自分では変えられない。腰が曲がっている患者には伸展、反っている患者には屈曲の運動など、姿勢と反対のストレッチをしているのに変わらない。どうやったら良くすることができるのか?
・ なぜ腰が痛いのか?それぞれの患者は姿勢が違っていても痛みは同じ部位にあるので、痛みの原因となる組織がわからない。
・ 治療を始めて割とすぐに痛みが軽減する患者もいれば、いくら治療してもなかなか痛みが取れない患者がいる。その違いはなにか?
この様な悩みは、あなただけではなく、多くの療法士が抱えている悩みでもあります。
ほとんどの人は勘違いしています。
では、どうしてこの様に悩んでしまうのでしょうか?
はっきりと言います。
それは、評価ができていないからです。
腰痛を良くするためには、局所診断(評価)をきちんとして痛みを拾っている組織を見つけて、それを改善していかなければいけません。
評価をしっかりとして組織を見つけて行かなければ、いくら体幹のトレーニングをしても痛みは軽減しません。
しかし、評価をしていないと言うと、よく言われることがあります。
「評価ぐらいしていますよ。毎回、痛みを確認して、動く範囲を確認しています。」と・・・
確かに、評価はしているかもしれません。
しかし、その評価は関節可動域を測ったり、筋力を確認したり、痛みの出る動きを確認する程度にとどまっています。
それも確かに大切です。
しかし、医療機関に来る腰部患者は主に腰痛があるために来院します。
そのため、痛みの原因となっている組織を特定(局所診断)して、なぜその組織が痛みを出してしまっているのかを評価しないといけないのです。
動きにくい方向に関節可動域練習やストレッチを、筋力が低下している筋のトレーニングを行っていればいいというわけではないのです。
まずは原因となっている組織を特定しなければいけません。
その痛みはいつからなのか、痛みの原因となっている組織はどのような状態なのかも考えなければいけません。
そして、その組織がが痛みを出す原因となる動作を解明していかなければ患者はよくならないのです。
腰痛はその状態と病期によって、私たちがやるべきことが異なります。だからそれをしっかり学ぶ必要があります。
腰痛のことをしっかり学びたい・・・
と思った、
あなたに、ぜひ読んで頂きたい書籍が出版されました!!
運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療
腰痛の原因と治療
腰痛の原因と治療
腰痛は何かと“多い”病気である
だから、腰痛に対する考え方、治療をしっかり網羅すれば、他の疾患にもおのずと応用できるようになるでしょう。
この書籍には、日本で初めて、運動器疼痛症候論という新しい考え方が解説されています。
“運動器疼痛症候論”とは、「整形外科的診断」および「疼痛症候学的診断」に基づき、臨床徴候から痛みの原因となる病態を診断し治療する体系として、高橋先生が提唱している概念です。
我々医療人は、患者の症状とその原因を多角的に突き詰めていく必要があります。高橋先生は当たり前になっていることを当たり前とは思わずに、いつも多角的な視点で真実を追求しようとしています。そしてその真実を追求しようとするお考えによって行き着いた概念が「運動器疼痛症候論」だと思います。
園部にも悩んだ過去があります
“私はコンディション・ラボを開院する前は、腰痛にはあまり自信がありませんでした。関東労災病院にいた時は、インソールを主にしていたため足部や膝関節疾患を診る機会が多く、腰痛患者を見る機会はあまりありませんでした。そのため開院して腰痛の患者が来たとき、痛みを改善することができるのかと、初めは身構えていました。”(動きと痛みlab主催セミナー「腰痛改善のための私の工夫と概念」より)
園部ですら悩んだことのある腰痛。 しかし、運動器疼痛症候論を知り、多角的に腰痛をとらえ、機能解剖学的に論理的に説明できるようになったことで、自信を持って腰痛に対峙することができるようになり、今では“最も得意とする疾患の一つ”になったのです。
腰痛に限らず、疾患に対する魔法の治療法はないのです。この疾患にはこうやって治療するといった決まった治療法も存在しません。
目の前にいる患者の病期はどこなのか・・・
痛みの原因部位の判断と説明・・・
それに見合った対応はできるのか・・・
姿勢のアドバイスはできるのか・・・
治療過程を患者に説明できるのか・・・
これらの事を患者に伝えることができますか?
これらは“腰痛にはこの治療”といったような画一的な治療法ではできません。
運動器疼痛症候論に基づく多角的な概念を身に着け、機能解剖学の知識を身に着けることにより説明、治療ができるようになります。
本書には、これまでの腰痛医療にはない考え方がたくさん含まれています。
そのため、この書籍を読むと腰痛の治療をする際、これまでとは見方が変わってくるはずです。画像に囚われていた考えが変わり、痛みを出している正体を本当の意味で探ろうとする思いが、これまでと変わってくるはずです。そしてこの思いこそ、医療を真に追求する思いであり、腰痛に限らずすべての医療の分野で役立つ概念になっていくと信じています。
運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療
腰痛の原因と治療
腰痛の原因と治療
序章
第1章 腰痛医療の現状
第2章 腰痛を理解するための基礎医学
第3章 腰痛の空間的構造と機能的構造
第4章 運動器疼痛症候論に基づく腰痛診療
第5章 運動器疼痛症候論に基づく腰痛治療
第6章 運動器疼痛症候論に基づく理学療法
巻末資料
第1章 腰痛医療の現状
第2章 腰痛を理解するための基礎医学
第3章 腰痛の空間的構造と機能的構造
第4章 運動器疼痛症候論に基づく腰痛診療
第5章 運動器疼痛症候論に基づく腰痛治療
第6章 運動器疼痛症候論に基づく理学療法
巻末資料
本書の構成はこのようになっています。
この本は、すべて読み終えると、これまでとは腰痛の見え方が変わります。そして、そのことが意味するものは、整形外科疾患で一番多い疾患の一つである腰痛を多角的にとらえ理解することができるのだから、これまでより腰痛患者に対する結果が変わります。また他の疾患についても多角的にとらえることができるようになるという事です。
なぜそう言えるのか、各章の内容を少し見てみましょう。
序章
この章は、
1. よくある光景
2. 現状
3. 腰痛を総合的に診断する
という構成になっています。
ある日、腰痛のAさんが来院しました。そしてレントゲンとMRIをとった結果、B医師に「レントゲンでL5/S1間の狭小化が認められ、MRIでL5/S1椎間板にヘルニアがあり、これが痛みの原因です。ヘルニアはかなり前からあったものです。」と告げられました。そして、「鎮痛薬と湿布で様子を見て下さい」と言われ様子を見ることにしました。1週間後、腰痛は和らぎましたが、日常生活に支障があるため再度来院。そこで、リハビリをしましょうと言われ、物理療法と運動療法が処方されました。リハビリ室に行くとC療法士に体幹や腰部のチェックが行われ、筋力トレーニングを主体としたリハビリが行われました。何度か通院しているうちに痛みは軽快していきました。C療法士に「腰痛が再発したら今回の運動を実践してください。予防のためにダイエットと日ごろから運動をしてください。」と言われました。Aさんは満足して「腰痛になったらまた来よう」と思いつつ帰宅しました。
どこにでもありそうな光景ですよね。
しかし、この中になにも問題はなかったのでしょうか?
本当に「正しい診断」と「診断に基づく適切な治療」がなされた結果、Aさんの腰痛は“治った”のでしょうか?
本当に「腰」が痛かったのでしょうか?
画像所見と症状は本当に一致していたのでしょうか?
以前からあったヘルニアがどうして痛み出したのでしょうか?
また椎間板ヘルニアがあるのにどうして痛みが消えたのでしょうか?
医師の診断と理学療法士の見立てが一致していたのでしょうか?
これらの疑問を感じませんでしたか?
現状として、整形外科医、ペインクリニック医、慢性痛の専門医、心療内科と精神科医、コメディカルでは、その立場によって、同じ患者を見ても見方がかなり異なります。整形外科医とそのオーダーにより治療を行っているはずのコメディカルの間で考え方が一致しない場合もまれではありません。
「無症候の中高年者に、X線やMRIを実施したらどうなるか。恐らくほぼ全員に加齢的変化が見つかるはずである。これらの加齢的変化をもともと持つ人が、腰痛になり画像検査を受けたならば、「変形性脊椎症」や「椎間板症」などと診断が示されるだろう。これが腰痛で来院する人が診断名を付けられる通常の過程である。
しかしこれらの過程を考えると、これらの所見が痛みを起こしているのかどうかが不確かなことは、医学の素人でもわかる。
整形外科的診断名は画像所見を示しているに過ぎず、必ずしも腰痛の真の原因を示しているとは限らない。腰痛の診療はもっと大きな体系で、多角的かつ、総合的な解釈が必要である。」(本文より引用)
この文面はとても重要だと思いませんか?
このことを踏まえて、本書では医療の現状や基礎医学、腰痛治療、理学療法について詳しく解説していきます。
第1章 腰痛医学の現状
この章は、
1. 腰痛の病因論
2. 腰痛治療体系
3. EBMとガイドライン
4. 医療者
という構成になっています。
この章では、病因論からはじまり、治療体系、EBMとガイドラインについて、そして医療者について現状が書かれています。
病因論は「局在論」「運動器機能不全論」「神経機能不全論」「心因論」が述べられています。これを見ているのは多くはコメディカル、療法士だと思いますので、恐らくは局在論を踏まえて運動器機能不全論を主体に考えていることが多いと考えられます。
痛みのとらえ方一つとってもこの様に違いがあります。
そして、医療を提供する立場の違いによって、腰痛患者の病因がどこにあるかの考え方が異なります。
整形外科医における病因論の中核は局在論。脊椎外科医の病因論は局在論と運動器機能不全論。麻酔科医、ペインクリニック医は局在論、神経機能不全論、心因論。リハビリテーション医は運動器機能不全論。とそれぞれの立場や専門領域によって腰痛のとらえ方が異なります。
高橋先生の考える腰痛専門医とは「1.患者さんの病態を身体、神経、心の面から総合的に診断し、2.自らが得意としない領域の評価は専門家に任せ、3.自分自身及び専門家からの情報を総合して診断を行い、4.その診療に基づいて治療計画を立ち上げ、5.それぞれの治療を最適な専門家に支持できる人の事である。つまり診断と治療計画のプロのことに他ならない。」(本文より引用)
この様に、それぞれの専門家が、それぞれの視点で病態をとらえ、総合的に診断されて治療することが必要とされます。
しかし多くの診療所は医師と理学療法士だけの場合が多く、医師と理学療法士がそれぞれ身体、神経、心の診断に通暁し適切な診断を行い、しかる後に「化学」の治療と、「物理」の治療の専門家として治療に当たらなければなりません。
第2章 腰痛を理解するための基礎医学
この章は、
1. 神経肉眼解剖学
2. 神経支配
3. 運動器疼痛の疼痛学
という構成になっています。
神経肉眼解剖学では、脊髄と脳、神経根・後根神経節、脊髄神経・神経叢・末梢神経、交感神経という構成になっています。腰痛を理解するために必要な肉眼解剖学です。構造を理解することは治療するうえで絶対に必要になります。しかし、知っているけど、理解できていないことが多いと思います。とても詳しくわかりやすく、医師の視点で書かれているためコメディカルは知っておく必要があります。
また、支配神経の節では、椎間板や椎間関節、仙腸関節、皮膚などの組織ごとに、「受容器」「求心路」「支配分節」が詳しく書かれており、ここまでわかりやすく、かつ詳しく書かれた本は多くはありません。
運動器疼痛の疼痛学の節では、「病変部位」、「受容器」、「一次求心性線維」、「二次求心路」、「疼痛感覚と痛み」、「感覚と情動」、「痛みと痛覚」、「生理的と病的」、「正常と病的」、「運動器疼痛と運動痛」について書かれています。さらに「正常と病的」では「体組織の組織修復機能低下による痛み」、「神経系それ自体を病変部位とする痛み」、「神経系の機能異常による痛み」、「心因性の痛み」について書かれています。
いかがでしょうか。
これを見ただけでも気になる事がたくさんあるのではないでしょうか?
運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療
腰痛の原因と治療
腰痛の原因と治療
第3章 腰痛の空間的構造と機能的構造
この章は
1. 序論
2. 体性感覚構造
3. 運動器疼痛の空間的構造
という構成になっています。
ここでは「運動器疼痛の空間的構造」から一部抜粋して紹介します。
運動器疼痛症候論においては、痛みを空間的に捉えることを重要視している。そのためこの項目では痛みを空間的な構造として捉えるために、「病変部位」、「疼痛感覚部位」、「疼痛知覚部位」の概念について説明する。
「病変部位」とは、病理学的変化を呈する体組織(運動器あるいは神経組織)の事である。(中略)腰痛の場合の病変の大きさと推定される診断名について表3-1にまとめる。
「疼痛感覚部位」とは、病変部位と感覚求心路において感覚を共有し、病変部位と同時に痛みが感覚される体組織(3次元空間)の事である。つまり、病変部位が刺激されると痛みが生じるが、同時に病変部位周辺の体組織にも痛みが感覚される。この様な現象が生じる病変部位周辺の体組織を筆者は「疼痛感覚部位」と呼んでいる。
「病変知覚部位」とは“痛みが知覚された体表面の領域”の事であり、臨床的に使われている“痛みの部位”や“疼痛部位”と同じ概念である。(中略)疼痛知覚部位とは、病変部位を含む疼痛感覚部位が体表に投射された部位の事である。そのため、四肢より疼痛感覚部位が広い領域を占めている脊柱周辺では体表に投射される疼痛知覚部位も広範囲を占めることになる。さらに脊椎疾患では、痛みは病変部周辺だけではなく神経機能的に関連する広い領域に知覚される。
筆者は疼痛知覚部位をわかりやすく図示するために、侵害受容性疼痛を示す図と神経障害性疼痛を示す図とに分けてまとめている。この図は筆者が「ペインマップ(pain map)」と呼んでいるものであり、臨床において常に念頭に置き、腰痛の診断には欠かせないものである。(中略)神経根障害のペインマップは皮膚節と似ているが、両者は一致しないことに注意してほしい。(本文より改変、引用)
疼痛を空間的とらえることや、疼痛知覚部位、ペインマップなど、これらの概念は臨床を考える上で、とても参考になるのではないのでしょうか。詳細は本書をご参考下さい。
第4章 運動器疼痛症候論に基づく腰痛診療
この章は、
1. 診断
2. 検査
3. 評価
という構成になっています。
ここでは「1.診断」の節の「問診と病歴」から一部抜粋して紹介します。
いかなる慢性腰痛患者においても、初発から発症までの経過について、初発時、過去腰痛歴、発症時、現病歴を確認する必要がある。
発症原因、既往歴、発症パターン、発症から初診までの経過などを確認する。
発症原因では、原因となった姿勢、動作、作業などを記録する。「高エネルギー外傷」は患者さん本人が覚えているため、問診は容易だが、「低エネルギー外傷」は本人が原因と認識していないことがあるため、注意深い聞き取りが必要である。
既往歴は、腰痛では他疾患との合併が診断上の参考になる場合がある。ステロイドの長期使用や血液透析は骨粗鬆症性椎体骨折を高血圧は腹部大動脈解離を疑わせる。
発症パターンは、急性発症、慢性腰痛急性増悪および不詳にわけられる。
また、発症から初診までの経過を確認することにより、腰痛を急性腰痛、亜急性腰痛、慢性腰痛、また急性腰痛は本急性と回帰性に分けられる。
さらに急性腰痛においては、急性期、寛解期、亜急性期、慢性期に、亜急性腰痛と慢性腰痛は、安定期、増悪期、寛解期とそれぞれの腰痛の病期を分ける。
また、患者さんは、腰痛を「重い、だるい、凝る、うずく、ずきずきする、しびれる、刺すような」など様々に表現する。これら言葉により示される痛みの性質はは、病変部位の病態を示唆していると思われる。
(本文より改変、引用)
いかがでしょうか。
目の前にいる患者さんの状態をどこまで把握できていますか?
急性期に運動をしてはいけませんよね。慢性期に安静もよくありませんよね。問診から患者さんがどの状態なのかを把握することは非常に重要になります。
問診に重きを置いていない人も少なくないと思います。
しかし、患者さんの訴える表現にも注意して聞くと見えてくるものが必ずあるため、トップランナーの多くは問診を丁寧に行います。
第5章 運動器疼痛症候論に基づく腰痛治療
この章は、
1. 序論
2. 急性腰痛の治療
3. 亜急性腰痛の治療
4. 慢性腰痛の治療
という構成になっています。
この章は急性腰痛、亜急性腰痛、慢性腰痛の治療を、病態ごとに紹介してあります。例えば、急性腰痛では、red flags腰痛、green light腰痛(急性期)、green light腰痛(寛解期)に、亜急性腰痛は炎症遷延、神経機能不全、神経障害、心因性に、慢性腰痛では、器質的病因による慢性腰痛、心因性慢性腰痛、サルコペニアに分けられています。
ここではgreen light腰痛(急性期)から紹介します。
【病態】
病変部位の体組織には、侵害受容性疼痛・炎症性疼痛が感覚されている。侵害受容性疼痛・炎症性疼痛を反映して痛みは中等度以上(VAS>30?)となる。病変部位に機械的刺激が加わるような姿勢や動作は、いずれも強い痛みを惹起する。侵害刺激が強い場合には疼痛感覚部位にも感作が生じる。
【薬物療法】
病変部位の侵害受容性疼痛・炎症性疼痛には原則として非抗炎症性鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)を処方する。(中略)筆者が非抗炎症性鎮痛薬を第一選択と考えるのは、急性期のgreen light腰痛における炎症は創傷治癒の第一段階であり、本来抑制しない方が良いと考えるからである。
【理学療法】
痛みが中等度以上(VAS>30?)の急性期における運動療法や徒手療法は、疼痛悪化や病変部位の創傷治癒の遷延化といったリスクがある。green light腰痛症例への理学療法は、整体術でいう関節のサブラクセーションも含まれるかもしれない。しかし徒手療法には痛みの悪化の危険性があり、診断と施術結果に確信がある場合を以外は施行すべきではない。
【安静】
腰痛診療ガイドラインは、急性腰痛に安静臥床は不要としている。しかし、痛みが強い場合には、安静は何よりも確実な鎮痛手段であり、安静は創傷治癒を促進するという意味もあるため、装具療法などの外固定も積極的に使用すべきである。
この様に、それぞれの「病態」、「薬物療法」、「理学療法」、「手術」、「精神療法」などが示されているため、各病期にどの様な治療方針で何が行われるかを、詳細に知ることができます。
第6章 運動器疼痛症候論に基づく理学療法
この章は、
1. green light急性腰痛の理学療法
2. yellow flags急性腰痛の理学療法
3. 神経機能不全(中枢性感作)
4. 神経障害
5. 慢性腰痛の理学療法
という構成になっています。
ここでは、慢性腰痛の理学療法の中の、「心因性以外の慢性腰痛」から抜粋して紹介します。
慢性腰痛においても運動器疼痛諸侯論に基づき、まずは局在論、運動器機能不全論、神経機能不全論の視点から患者を診て、その原因を器質的・機能的な病態から考えるようにする。慢性痛に至った腰痛患者には、病変部位の影響以外にも、中枢性感作、筋緊張、精神的に不安感など多角的は要因が影響している。こうしたことを念頭におき、その患者に関わる医師・療法士・看護師・薬剤師などがチームとしてかかわって行く事を重要視している。
【チームとしての関わり方】
慢性腰痛患者は、心因性ではない場合でも精神的な不安を有し、また医療側に不信感を覚えることもあり、心理面での影響も無視できない。このため「患者と医療側は同じ目的に向かいうために協力しあう関係」であることを理解してもらいながら治療することが大切である。
【筋緊張の緩和】
慢性腰痛では病態が明確であるか否かに関わらず、中枢性感作や筋緊張が痛みに影響している可能性が高い。このため理学療法を施行する際は、上述した心理的側面の配慮に加え、筋緊張を緩和させることを先行する。「筋緊張を緩和させるためのアプローチ」で紹介しているので参照されたい。
【仮説検証の繰り返し】
慢性腰痛においても、局在論、運動器機能不全論、神経機能不全論の視点から患者を診て、その原因を器質的・機能的な病態から考え仮説検証を繰り返し行う。病態が明確になればチームとして行うことも当然決まってくるはずである。特に慢性痛では画像所見や検査所見にはその病態が現れないことも多く、診断が容易ではない場合がある。そのため病態把握においても療法士の役割は大きいと考える。例えば療法士が仮説検証の繰り返しの中で
「この筋を緩めると痛みが緩和するので、病態として○○が関与していると仮説を立てることができる」
「この部位の可動域を拡げると痛みが緩和するので、病態として○○が関与していると仮説を立てることができる」
「この肢位をとらなければ痛みが出ないので、病態として○○が関与していると仮説を立てることができる」
などの情報を医師と話し合うことで患者の病態把握に一役を担うことができる。
などなど、これだけではこの本の魅力を紹介しきれませんが、これまでとは腰痛の見え方が変わると言っても過言ではありません。なぜなら、これまでは腰痛の症候学的診断という視点が十分ではなかったと思われ、多角的視点で総合的に診断する視点の一つである、「運動器疼痛症候論」の概念と知識を得ることができるからです。この概念と知識は、腰痛診療に関わる全ての医療者にとって基本となる知識なのです。
それでもあなたはこう思ったかもしれません。
そんなこと言っても、他の腰痛の本と大して変わらないんじゃないの?と。
それはあなた次第です。
もしあなたが、やはり腰痛はあまりよくならないと思って治療すれば、結果は伴わないでしょう。
しかし、あなたが本気で腰痛患者を良くしたいとと思えば、この本に書かれていることは宝の山となる事でしょう。この本を読むことは、あなたの療法士としての今後の人生にとって、最高に価値のある時間になるはずです。
運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療
腰痛の原因と治療
腰痛の原因と治療
著者の紹介
高橋 弦先生(山王整形クリニック 院長)
昭和59年千葉大学医学部卒業
同年千葉大学整形外科入局
松戸市立病院、君津中央病院、川崎製鉄千葉病院、
千葉大学付属病院、国立精神神経センター国府台病院、
千葉市医療センター(センター長)に勤務
平成21年より山王病院整形外科に勤務
【資格】 医学博士、日本整形外科学会整形外科専門医
【専門】
腰痛、背部痛、神経痛、慢性痛、肢体不自由児者医療
【専門的活動】
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会、日本腰痛学会、日本疼痛学会、
日本運動器疼痛学会、日本解剖学会
園部 俊晴(コンディション・ラボ所長)
足・膝・股関節など、整形外科領域の下肢障害の治療を専門としている。
故、入谷誠の一番弟子。一般からスポーツ選手まで幅広く支持され、多くの一流アスリートや著名人などの治療も多く手掛ける。身体の運動連鎖や歩行に関する研究および文献多数。
「リハビリの先生が教える 健康寿命を10年延ばすからだのつくり方」「スポーツ外傷・障害の術後のリハビリテーション」「医療従事者のための効果的な文章の書き方」など著書多数。
新聞、雑誌、テレビなどのメディアにも多く取り上げられる。
運動連鎖を応用した治療概念は、専門家からの評価も高く全国各地で講演活動を行う。また、医療の現場に役立つ書籍を数多く残していきたいという思いから、臨床を主軸にしながら運動と医学の出版社の代表取締役も勤める。
【肩書き】
理学療法士 コンディション・ラボ(インソールとからだコンディショニング専門院) 所長
運動と医学の出版社 代表取締役社長
臨床家のための運動器研究会 代表理事
身体運動学的アプローチ研究会 代表理事
入谷式足底板インストラクター
実践リハビリ研究会 学術顧問
文京学院大学保険医療科学研究科(大学院)・特別講師
昭和大学保健医療学部理学療法科(理学療法科4年)・講師
整形外科とリハビリの巨匠が共著!
運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療
腰痛の原因と治療
運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療
腰痛の原因と治療
『腰痛の原因と治療−運動器疼痛症候論に基づく総合的な診療−』の紹介動画
レビュー
いい本!
- なる
- 20代
- 女性
- 2023/10/25 22:37:47
腰痛の仕組みを知るならまずはこの本を読んでからが良いと思います。
腰痛って奥が深い
- ひーろー
- 40代
- 男性
- 2022/12/08 08:56:34
腰痛について事細かく書かれている本で、とても勉強になりました。
- つばめ
- 30代
- 男性
- 2022/11/22 22:16:25
腰痛患者の痛みの出方の特徴など今まで疑問に感じていた事、曖昧になってしまっていた事が詳しく書かれてました。何度も読み返して現場に活かせるよう努めます。
再確認できた
- まこ
- 30代
- 男性
- 2022/08/10 19:01:14
臨床のヒント、自身の引き出しを増やせた
- と
- 20代
- 女性
- 2021/08/15 11:37:46
1回ではなかなか理解できませんでしたが、臨床する上で知っておきたい内容だと思いました。
腰痛のバイブル
- あ
- 20代
- 男性
- 2021/08/15 00:02:15
腰痛の患者様を見るにあたって持っていた方がいい本だと思います。
次の日から早速使わせてもらいました。
次の日から早速使わせてもらいました。
- サブ
- 50代
- 男性
- 2021/04/18 03:05:04
徒手治療の動画があれば、もう少し深く理解して、日頃の施術に活かせていけたと思います。でも、この書籍の内容を良く読み返して、治療に取り入れていける様に努力したいと思います。
治療優先
- TPT
- 20代
- 男性
- 2020/11/10 22:18:07
運動療法のための治療といったイメージ本です。
参考になりました
- いわさん
- 30代
- 男性
- 2020/08/28 22:15:38
運動療法が特に参考になりました。
臨床で取り入れてみたいと思います。
臨床で取り入れてみたいと思います。
腰痛に対する考え方
- ym
- 20代
- 男性
- 2020/05/29 12:44:55
腰痛に対する考え方が変わった一冊でした
- 2020/05/13 11:12:29
腰については卒前では深く習わない内容であるため、苦手意識があった。
この本を読むことで腰痛の病態を理解することができ、病態に対するアプローチの一助となった。
この本を読むことで腰痛の病態を理解することができ、病態に対するアプローチの一助となった。
- 2020/05/07 14:54:52
仮説検証に非常に役立ってます。
分かりやすい本です
- haru
- 40代
- 男性
- 2020/03/16 17:58:47
まとまった内容で読みやすく分かりやすい本でした。
- こは
- 40代
- 男性
- 2020/02/18 13:41:29
腰痛を整形外科医的視点、ペインクリニック医、コメディカルなど、それぞれの立場の視点からの解釈および評価見立ての一致が必要であると改めて思いました。勉強になる一冊です。
わかりやすい本です。
- くま
- 40代
- 男性
- 2020/02/13 17:01:37
わかりやすい本です。臨床の場でも腰痛は多く悩む疾患の一つなので、参考にしながら使っていきたいです。
読みやすい
- TAKA
- 40代
- 男性
- 2020/01/25 14:50:13
臨床で神経症状を持つ患者さんを受け持つ機会がよくあります。
なかなか教科に書いてあること、画像所見と一致しないことが多く悩んでました。
本書は皮膚節,筋節、骨の細かく記載されているためわかりやすかった
です。また両側性に表出するパターンや片側性についても理由を書いてあります。
治療後に確認するときの参考になっています。
なかなか教科に書いてあること、画像所見と一致しないことが多く悩んでました。
本書は皮膚節,筋節、骨の細かく記載されているためわかりやすかった
です。また両側性に表出するパターンや片側性についても理由を書いてあります。
治療後に確認するときの参考になっています。
参考になる
- たかん
- 20代
- 男性
- 2020/01/22 17:32:26
よくまとまった内容で参考になった。臨床で困ることが多くある疾患だが、参考にしながらリハビリに役立てていきたい。
素晴らしい書籍です!
- ガラガラ
- 20代
- 男性
- 2020/01/06 11:53:19
腰痛を考える上での考え方の幅が広がり、仮説検証がしやすくなったと思います。
絵などあり病態のイメージがしやすく、臨床で実践しやすい内容だと思います。
絵などあり病態のイメージがしやすく、臨床で実践しやすい内容だと思います。
とても分かりやすいです
- クマさん
- 30代
- 男性
- 2020/01/05 17:11:26
とても分かりやすい本です。
特に3章4章については絵も分かりやすくて良い勉強になりました。腰部の整形疾患でお悩みの方はご一読されたらよいと思います。
特に3章4章については絵も分かりやすくて良い勉強になりました。腰部の整形疾患でお悩みの方はご一読されたらよいと思います。
腰痛の考え方の幅が広がりました。
- キムキム
- 20代
- 男性
- 2019/12/30 21:12:58
新たな腰痛の考え方に触れることができて非常に勉強になりました。
今後も腰痛について積極的に学んで行きたい。
今後も腰痛について積極的に学んで行きたい。
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