臨床家としての私の理念--紀伊克昌

 私は40年以上におよぶ臨床において、患者様から人間の無限の可能性を教えて頂いた。このことが私の財産であり、これまでの私を育ててくれたと思っている。今回、「臨床家としての私の理念」というテーマを頂き、以下に、私がこれまで臨床とどのように向き合ってきたのか、その想いを紙面にまとめた。

臨床推論

  臨床において、私は患者様との相互関係を下図のように考え、これを大切にしている。患者様が言葉以外の表出で訴えかけていることに、私は全感覚を研ぎ澄まし、セラピストとして、何が出来るであろうか、知識と経験の全てに思いを巡らす。特に、脳性まひ、脳卒中、頭部外傷などの重度脳障害の患者様には、その苦痛を一刻も早く取り除いてあげたい。この種の患者様たちは、環境や人との接触関係をもっともデリケィトに感じ取り(In put入力)、もっともセンシティブに反応される(Out put出力)。

 重度の患者様が、私のハンドリング技術を磨いてくれている。重度の患者様から、私は人間の脳の無限の可能性を教えて貰っている。ひとりひとりの患者様の反応が、私にとって宝物であり、権威ある学者意見や教科書よりも真理と信じている。CT、MRIなどの画像で、病巣部位や障害範囲が明確になった現代では、予測的なことも含めて、かなり断定的な診断説明が行われる。ネガティブな説明により、精神的に落ち込んでいる家族に多く出会う。どんなに重篤な人でも生きている限り、周りからの働きかけ(In put)次第で、信じられないほどの答え(Out put)が返ってくることがある。私は、悲観的意見に同調しないで、ポジティブに可能性を見つけ出す促通方法(環境整備も含めて)を探す。重篤な人に対してこそセラピストとして問題解決しなければならない課題が多く、勉強になることが多い。だから若いセラピストたちには、「治療の成果やリハ実践が、思うように行かないのを決して、患者様と家族の所為にしない、すべての責任は治療者にある。どんな言い訳もしてはいけない。重度の患者様を担当することは、良い勉強経験と思って感謝しなさい」と指導している。
 患者様とポジティブな人間関係を継続すると、思いがけないほどの能力発揮の感動場面に遭遇する。そして、セラピストは、クリエィティブな臨床推論の持ち主に成長することができると私は考えている。

紀伊 克昌


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