臨床家としての私の理念--中部学院大学 林 典雄

臨床家として…臨床も、研究も、教育も

 理学療法士になって25年が経過しました。この間のほとんどを、整形外科領域のリハビリテーションに関する臨床、研究、教育に、自分の能力の範囲で努力してきたつもりです。あまり肩を張らず、でも少しだけ背伸びして…患者の笑顔をみるために…

 養成校を卒業し就職した某国立病院で臨床生活が始まりました。ここで、私の臨床家としての基礎を作っていただいた、私の永遠の親分である整形外科医に出会います。親分が言われることはただ一つ、「患者を治しなさい」だけだったと思います。回診ではよく患者の前で叱られたものです。当然悔しいですから、関連書籍にその解決法を求めるわけですが、当時の理学療法関連の雑誌には、目の前の患者治療に関する論文は決して多いとはいえず、理学療法の組み立ての基本を解剖学に求めるしかなかったと記憶しています。解剖学とは言っても書籍を中心としたもので、金原出版の分担解剖学を何度も、何度も開き、気がつくと表紙の文字が分からなくなっていました。これに、学生時代に習った運動学との組み合わせの中で、自分なりの触診技術を試行錯誤していたと思います。患者の体をしっかりと触れるようになると、不思議に成績がよくなり、さらにしっかりとした関節機能解剖を勉強するために、整形外科関連雑誌をどんどん読むようになりました。整形外科としての知識が増え関節機能がわかってくると、手術の意味がわかりますし、理学療法の方向性も明確になりますから、さらに臨床成績はよくなっていきました。親分は理学療法士に最も期待する臨床効果は拘縮の改善と常々おっしゃっていました。まずは健側と変わらないレベルに、次は健側を超えるレベルに!そのためのベースとなる知識は機能解剖学、ベースとなる技術は組織を触れて操作するスキルということになります。いろいろな意味で拘縮を改善すると関節痛もよくなることがその後の臨床の積み重ねで分かってきましたし、私はこれらを勝手に「拘縮性疼痛症候群」と呼んでいます。この症候群を治す職業は他ならぬ、理学療法士と信じています。

 臨床の中である程度の結果が出せるようになると、今度はそれらを第三者に伝える必要性が出てきました。また、もっと患者が楽に拘縮を改善できないか、もっと痛くなく治療が出来ないか・・・、自分で研究し情報発信する必要が出てきました。私の研究のほとんどは拘縮治療へつながるものがほとんどです。私の2人目の師匠である整形外科医との出会いは、その理論付けの面で貴重な時間となりました。私の著書「運動療法のための機能解剖学的触診技術」は、好評の中で多くの理学療法士やその他職種の方々に読まれています。この本は第2の師匠の存在なくして世の中に出ることはなかったことをここでお伝えさせて頂きます。
 そして今、私の中で旬なテーマが運動器超音波です。ご遺体でしか観察し得なかった組織を、全く無侵襲かつリアルタイムに、そして生きた人間の関節機能を観ることが可能になってきました。この超音波の可能性を教えていただいたのが、私の3人目の師匠である整形外科医との出会いです。3人目の師匠は運動器超音波の威力を整形外科領域の中で見せつけています。私も生きた人間の関節動態を超音波を利用して観察し、自分のスキルをさらに高めるとともに、多くのそしてハートのある若き理学療法士に伝える義務があると考えます(ちょっと偉そうですが…)。

 歳をとってくると、色々なことが頭に浮かんできます。ふと気がつくと今まで経過してきた理学療法士としての月日より、これからの月日の方が短いことが分かります。いつ病気になるかもしれませんし、交通事故で突然に死が訪れるかもしれません。3人の整形外科医の影響を受けたからこそ今の私があるのですから、そのコンセプトは後世に伝えることも私の責任です。すなわち教育です。
 私は養成校時代の同級生とともに、臨床6年目で現在の整形外科リハビリテーション学会の前身である整形外科リハビリテーション研究会を作りました。その思いは「一症例を大切に、そしてしっかり治す」をコンセプトに、今も変わることなく今年で19年目を迎えました。全国の多くの会員が所属し勉強しています。技術を磨いています。若き理学療法士には患者を何とかしたいと思う気持ちで他の人に負けてほしくないですし、努力を続けてほしいと思います。この学会を通して、整形外科領域を扱う臨床家の卒後教育の一端を共感していただいている整形外科医とともに担えれば、本物の臨床家が増えていくのだと信じています。「そろそろゆっくりしてください」と若き会員や教え子たちに言われる日を楽しみにしています。それでもプローベをいじっていそうですが…。

人生1回きりですから、前向きに楽しい方がいいじゃん!
がんばらないよりがんばった方が楽しいじゃん!
一人で考えるより志をともにした仲間がいる方がいいじゃん!

中部学院大学 林 典雄


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